虚なアイ
本を読んだ。
始まりは恋愛小説。
現代風に出逢った殿方と実際にデートしてみることになったので、恋愛小説が読みたかった。
ただ、他人の恋愛から何か参考にしたかったから。
【恋愛小説】
と検索したら、この本に辿り着いた。
他に出てきた本には対して興味をそそられなかった。
たった1冊だけ、読んでみたいと思った本、それがこの本だった。
存在は元々知っていて、でも私の認識ではこれは恋愛小説ではなかったので、ちょっと違和感があった。
しかし実際に読む前に、デートの日は訪れた。
待ち合わせ前に本屋さんをぶらぶら。
その時はこの本のことは忘れていた。
プレミアムカバー。
という、ある出版社が毎年数冊選んで出している特別なカバー。
青とか赤とか黒とか、一色だけの絵のないシンプルなカバーが私はとても好きで、毎年1冊買うことにしている。
今年のラインナップを眺めた。
あっ。と思った。
あの本だ。
緑。
私は迷わず手に取った。
帰りの電車に揺られながら読み始めた。
初読。
だと思っているが、いつかどこかで読んだことがあるような、ないような。
この居心地の良さはなんだろう。
それはそこが幾度となく私が夢見た世界だからなのか。
これは憧憬小説。
こんな温かい場所に居た記憶はどこにもない、なのにどこか懐かしい。
幼い頃から憧れ続けた場所。
でももう辿り着けないと思い始めていた。
それでも今なお、私は求め続けている。
私の中の虚なアイと、誰かの中の虚なアイが出逢う場所を。
正解はない。
喜びもない。
ただ、静けさがあるその場所を。
20200924