不漁の日々に
本を読んだ。
3読目。
初読は小学生の夏。
読書感想文のために読んだ。
しかし、何も書けなかったことを覚えている。
2読目は数日前。
不漁続きの漁師の老人に、自分の姿を重ねて、あるいはこの本の中に自分を慰めてくれる何かがあるかもしれないと思って手に取った。
しかし、結果は慰められるどころか、生き延びることすら出来なかった。
そして3読目。
前読以来、ずっと何かが引っかかっていて次の本に進めなかったから。
何も読めなかった過去2読。
それは屈辱ではあったが、でも、84日間不漁続きという老人と舟に乗るには悪くない状況なんだと思った。
そして、何かを釣り上げる気で読み始めた過去2読とは、今読は全くちがう心情だった。
ただ、自分が生きて帰ることができるかどうか。
それを見定めるためだけに老人と舟に乗った。
そして帰ってきた。
帰ってきたんだ。
正直自分でも驚いている。
今までハードボイルドという名のもとで、雄々しさやたくましさばかり強調されていた作品。
でも、生き延びた私が見たものは、あの子を想い、あの子の憧れを守りぬき、あの子の元へ帰る喜びを胸に生きる老人の姿だった。
母なる海、そのものだった。
書きたいことがまとまらない。
ほどに静かな興奮の中にいる。
この読書体験は忘れたくない。
20200925